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甲府地方裁判所 昭和60年(ワ)166号 判決

甲、乙、丙事件原告・参加事件被参加人(以下「原告」という。)

山梨県

右代表者知事

天野建

右訴訟代理人弁護士

細田浩

右指定代理人

長坂信一外六名

甲、乙、丙事件被告・参加事件被参加人(以下「被告」という。)

忍草入会組合

右代表者組合長

天野重知

右訴訟代理人弁護士

色川清

廣瀬理夫

参加事件参加人(以下「参加人」という。)

日本道路公団

右代表者総裁

鈴木道雄

右代理人東京第一建設局長

西尾孝彦

右訴訟代理人弁護士

井関浩

右訴訟複代理人弁護士

大木健

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録(七)記載の各建物ないし工作物を収去して、同(五)記載の土地を明け渡せ。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録(八)記載の各建物ないし工作物を収去して、同(六)記載の土地を明け渡せ。

三  被告は、原告に対し、別紙物件目録(九)記載の各工作物を収去せよ。

四  被告は、原告に対し、別紙物件目録(四)記載土地上に建物、工作物等を設置してはならない。

五  原告は、参加人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地が参加人の所有であることを確認する。

六  被告は、参加人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物及び同(三)記載の工作物を収去して、同(一)記載の土地を明け渡せ。

七  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用は、原告と被告との間においては、原告に生じた費用の五分の四を被告の負担とし、被告に生じた費用の五分の一を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、参加人と原告及び被告との間においては、参加人に生じた費用の五分の一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

九  この判決は、第一ないし三項、六項につき、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件について)

1 被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物及び同(三)記載の工作物を収去して、同目録(一)記載の土地を明け渡せ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(乙事件について)

1 被告は、原告に対し、別紙物件目録(七)記載1ないし3の建物ないし工作物を収去して、同目録(五)記載の土地を明け渡せ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 第一項につき仮執行宣言

(丙事件について)

1 被告は、原告に対し、別紙物件目録(七)記載4ないし6の工作物を収去して、同目録(五)記載の土地を明け渡せ。

2 主文第二、三項と同旨

3 主文第四項と同旨

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 第一、二項につき仮執行宣言(参加事件について)

1 主文第五項と同旨

2 主文第六項と同旨

3 訴訟費用は原告及び被告の負担とする。

4 第二項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(甲乙丙事件について被告の答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は甲乙丙事件を通じて原告の負担とする。

(参加事件について原告の答弁)

1 参加人の請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

(参加事件について被告の答弁)

1 参加人の請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(原告)

(甲乙丙事件)

1 原告は、以下のとおり、別紙物件目録(一)、(四)及び(五)記載の各土地(以下「土地(一)、(四)及び(五)」という。)を所有している。

(以下、山梨県富士吉田市上吉田字檜丸尾所在の土地については、地番のみを記載する。また、平成五年八月二日現在の檜丸尾五六〇七番二六八の土地と同番二七四の土地を併せて「本件土地」という。)

(一) 原告は、大正五年五月二日、福地村外四ヶ村恩賜県有財産保護組合(後に、昭和二三年ころ「富士上吉田町外四ヶ村恩賜県有財産保護組合」となり、昭和二六年ころ「富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合」となる。以下「保護組合」という。)に対し、その所有していた本件土地を含む当時の地番檜丸尾五六〇七番の山林七五町歩のうち本件土地を含む五四町余を払い下げた。

(二) 保護組合は、大正一五年一一月二二日、富士山麓土地株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、右(一)のとおり山梨県から払下げを受けた檜丸尾五六〇七番の土地のうち本件土地を含む一五万坪を売却した(以下「本件売買」という。)。

(三) その後、訴外会社は、右の土地一五万坪を別荘地、道路等を造成するため分筆し、一部を訴外会社の株主ら九〇余名に譲渡したが、国は、昭和二二年一〇月二日、訴外会社及び九〇余名の右分筆された土地の持ち主から、五六〇七番二三二、二三四(いずれも訴外会社が買い受けた土地を東西に横断する道路である。)より南側の土地であって、本件土地を含む、檜丸尾五六〇七番二〇八外一六七筆の土地三七町余を自作農創設特別措置法により買収し、合筆のうえ、昭和二五年二月一日、檜丸尾五六〇七番二五五として梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡した。

(四) 国は、昭和二九年三月六日、右檜丸尾五六〇七番二五五の土地を、再度買収した。

(五) 国は、右檜丸尾五六〇七番二五五の土地から檜丸尾五六〇七番二六八の土地を分筆し、昭和五二年九月五日、原告に売り渡した(以下「本件国有財産払い下げ」という。)。

(六) 昭和五九年八月一六日、右檜丸尾五六〇七番二六八の土地から、同番二七四が分筆された(右分筆後の檜丸尾五六〇七番二六八の土地と同番二七四の土地が「本件土地」である。)。

2 被告は、主として明治時代から継続して山梨県南都留郡忍野村忍草区(忍草部落とも呼称される。以下「忍草部落」という。)に居住し現に農業を専業とする家の世帯主をもって構成され、忍草部落固有の入会地の保護管理及び利用並びに入会地から生ずる収益(現物及び金銭)の管理運営等を目的として、又入会地及び入会財産にかかわる一切の収益の管理運営及び処分に関する一切の事項等を業務として掲げるいわゆる権利能力なき社団である。

(甲事件)

3 被告は、土地(一)上に、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「建物(二)」という。)及び同目録(三)記載の工作物(以下「工作物(三)という。)を所有し、右土地を占有している。

(乙事件)

4 被告は、土地(五)上に、別紙物件目録(七)記載1ないし3の建物ないし工作物(以下「建物ないし工作物(七)1ないし3」という。)を所有し、右土地(五)を占有している。

(丙事件)

5 被告は、土地(五)上に別紙物件目録(七)記載4ないし6の建物ないし工作物(以下「建物ないし工作物(七)4ないし6」という。)を所有し、右土地(五)を占有している。

6 被告は、別紙物件目録(六)記載の土地(以下「土地(六)」という。)上に、別紙物件目録(八)記載の建物ないし工作物(以下「建物ないし工作物(八)」という。)を所有し、右土地(六)を占有している。

7 被告は、土地(四)上に、別紙物件目録(九)記載の工作物(以下「工作物(九)」という。)を所有している。

8 被告は、今後も土地(四)上に、建物、工作物等を設置して、原告の右土地の使用を妨害するおそれがある。

9 よって、原告は、被告に対し、土地(一)の所有権に基づき、建物(二)及び工作物(六)の収去並びに土地(一)の明渡を、土地(五)の所有権に基づき、建物ないし工作物(七)1ないし3の収去並びに土地(五)の明渡を、土地(四)の所有権に基づき、被告に対し、建物ないし工作物(七)4ないし6、(八)、工作物(九)の収去及び土地(五)、(六)の明渡並びに土地(四)上に建物、工作物等を設置することの禁止をそれぞれ求める。

(参加事件)

1 原告の請求の原因1ないし3に同じ。

2 参加人は、昭和五九年七月二〇日、原告から、檜丸尾五六〇七番二七四の土地を買い受けた。

3 原告は、土地(一)を所有していると主張している。

4 よって、参加人は、原告に対し、土地(一)の所有権に基づき、土地(一)の所有権の確認を、被告に対し、土地(一)の所有権に基づき、建物(二)及び工作物(三)の収去並びに土地(一)の明渡を求める。

二  請求原因に対する認否

(原告の請求の原因に対する認否)

1(一) 請求の原因1(一)の事実のうち、原告が、大正五年五月二日、福地村外四ヶ村恩賜県有財産保護組合(後に、昭和二三年ころ「富士上吉田町外四ヶ村恩賜県有財産保護組合」となり、昭和二六年ころ「富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合」となる。)に対し、その所有していた分筆前の当時の地番檜丸尾五六〇七番の山林七五町歩のうち五四町余を払い下げたことは、認め、その余は知らない。

(二) 同(二)の事実のうち、保護組合が、大正一五年一一月二一日、訴外会社に対し、檜丸尾五六〇七番の土地のうち一五万坪を売却したことは、認め、右土地に本件土地が含まれていることは知らない。

(三) 同(三)の事実のうち、国が、昭和二二年一〇月二日、檜丸尾五六〇七番の二〇八外一六七筆の土地三七町余を買収し、昭和二五年二月一日、檜丸尾五六〇七番の二五五の土地を梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡したことは認め、檜丸尾五六〇七番の二〇八外一六七筆の土地に本件土地が含まれていることは否認し、その余は知らない。

(四) 同(四)ないし(六)は認める。

2 請求の原因2ないし7は認める。

(参加事件の請求の原因に対する原告の認否)

請求の原因は認める。

(参加事件の請求の原因に対する被告の認否)

1 請求の原因1で引用する甲事件請求の原因1ないし3に対する認否は、原告の請求の原因1ないし3に対する認否に同じ。

2 同2は認める。

三  抗弁

(甲事件に対する抗弁)

1 原告は、昭和五九年七月二〇日、参加人に対し、檜丸尾五六〇七番の二七四の土地を売り渡した。

(甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁)

1 本件国有財産払い下げ契約の無効

本件国有財産払い下げ契約は以下のとおり無効である。

(一) 会計法二九条の三及び民法九〇条違反

本件国有財産払い下げは、随意契約により行われたが、法令上、随意契約によることができない場合であるから無効である。

すなわち、本件国有財産払い下げは、原告が本件土地を直接必要としたものではなく、右土地を保護組合に再払下げして、営利を目的とする造林事業経営に供せしめるため、便法としてなされたにすぎないものであるから、予算決算及び会計令(以下「予決令」という。)九九条二一号にいう「公共用、公用又は公益事業の用に供するため必要な物件を直接に公共団体に売り払うとき。」に該当せず、また、その他本件国有財産払い下げが予決令九九条各号所定の場合に該当しないことも明らかであるから、本件国有財産払い下げは、会計法二九条の三及び民法九〇条に違反し無効である。

(二) 会計法二九条の八及び民法九〇条違反

会計法二九条の八に基づき定められた予決令一〇〇条一項七号によれば契約に関する紛争の解決方法が契約書の必要的記載事項とされているにもかかわらず、本件国有財産払い下げ契約は、これを欠いているから無効である。

(三) 民法九〇条違反

本件国有財産払い下げ契約は売買代金を時価の約三〇分の一という極めて低い金額としており、会計法の大原則である公正性を欠いており、民法九〇条に違反し無効である。

2 入会権

被告の占有は以下に述べる入会権に基づくものである。

(一) 古来からの入会権

被告構成員の居住している忍草部落は、富士山北麓の高冷地で、酸性火山灰土壌で農耕による生産性が極めて低いため、同部落の住民は、古くから大量の生草を採取して堆肥を作り、牛馬を飼育して農業経営を支えてきたが、そのため同住民は江戸時代から現在に至るまで、集団の統制管理の下で本件土地を含む通称梨ヶ原一帯に立ち入って、堆肥あるいは飼料用の生草を保護管理し、桑を植え、これらを採取するなどの慣習がある。特に檜丸尾地区は、採石地として使用されてきた。

すなわち、右部落住民は、梨ヶ原一帯について、地役の性質をもち、その内容は何ら限定がなく土地所有権者同様の収益をなしうるという入会権を有していたのであるが、その後右部落住民の入会団体をもって組織された被告が右入会住民の統制と入会地及び入会収益の管理をしているのである。

(二) 入会権の再発生

仮に、右の入会権が、本件売買あるいは、自作農創設特別措置法に基づく国による昭和二二年一〇月二日の未墾地買収によって消滅したことはあるとしても、その後においても、忍草部落住民である被告構成員及びその父祖らは、被告の管理統制の下に本件土地に入会い、これが慣行となっているから、新たに入会権が発生した。

3 地上権もしくは賃借権類似の使用収益権

国が被告に対し、昭和三一年五月一日、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定の実施に伴う国有の財産の管理に関する法律(以下「国管法」という。)四条一項に基づいて、檜丸尾五六〇七番三四町八反八畝六歩につき植林目的で国有財産の一時使用許可を与えたことにより、あるいは、昭和四八年四月一〇日、右使用許可が終了した時点で、本件土地上に、植林及び林業経営を目的とし、期間を昭和三一年五月一日から六〇年間(赤松の一伐期)とする被告の地上権もしくは賃借権類似の使用収益権が発生した。

4 権利濫用

原告は、本件に先行する仮処分申請事件を提起するまでは、被告の土地使用権が存在していない旨の主張をせず、被告が本件土地を利用することについて苦情を述べなかった。また、原告は、本件土地を巡る問題の円満解決について誠意ある対応を示さず、被告の分裂を策動してきた。

被告が本件土地上において三六年間にわたり育成し所有権を有する立木を放棄するに等しい明渡しをすることは、被告にとって不利益が著しく、一方、本件明渡請求によって保全しうる原告の権利は比較にならないほど小さいものである。

したがって、原告の本訴請求は権利の濫用にあたる。

四  抗弁に対する認否

(甲事件に対する抗弁)に対する原告の認否

抗弁記載の事実は認める。

(甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁)に対する原告及び参加人の認否

抗弁1、2の主張については争う。

抗弁3の事実のうち、国が、被告に対し、昭和三一年五月一日、国管法四条一項に基づいて、檜丸尾五六〇七番三四町八反八畝六歩につき植林目的で国有財産の一時使用許可を与え、昭和四八年四月一〇日、右使用許可が終了したことは認める。

その余は、否認する。

なお、仮に被告が本件土地に入会権を有するとしても、被告が本件土地上に設置した本件の各建物及び工作物は、入会権の行使とは無関係なものであるから、占有の根拠とならない。

五  原告及び参加人の再抗弁

(乙、丙、参加事件に対する抗弁)

2 入会権に対して

入会権の消滅

1  保護組合は、檜丸尾五六〇七番のうち本件土地を含む一五万坪及び隣接する梨ヶ原地区の土地を、別荘地及び鉄道用地として訴外会社に売却すべく、保護組合議会の全員一致の議決を経て、訴外会社との間で、大正一五年一一月二二日、売買代金二三万二〇〇〇円をもって売買契約を締結した。

右売却については、忍草部落の住民は格別反対せず、全員同意し、入会補償なども問題とされたことは全くなく、昭和二年三月一三日、保護組合は右土地の訴外会社への引渡を完了した。

したがって、本件売買の結果、本件土地についての忍草部落住民の入会権は消滅した。

2  仮に右1が認められないとしても、戦後多数の引き揚げ者が満州から帰国し、かつ、極端な食料難の時代であったので、国は、昭和二二年一〇月二日、本件土地を含む檜丸尾五六〇七番二〇八外一六七筆の土地三七町歩余を、自作農創設特別措置法により、未墾地として買収した。

したがって、右買収の際、自作農創設特別措置法三四条一項、一二条一項により、本件土地についての入会権は消滅した。

六  再抗弁に対する被告の認否

1  再抗弁1の事実のうち、保護組合が、大正一五年一一月二二日、訴外会社に対し、檜丸尾五六〇七番の土地のうち一五万坪を売却したことは、認め、右土地に本件土地が含まれていることは知らず、その余は否認する。

忍草部落住民は入会権を留保して本件売買に同意したものであって、右売却による入会権は消滅していない。

2  同2の事実のうち、国が、昭和二二年一〇月二日、檜丸尾五六〇七番の二〇八外一六七筆の土地三七町余を自作農創設特別措置法により、未墾地として買収し、昭和二五年二月一日、檜丸尾五六〇七番の二五五の土地を梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡したことは認め、その余は否認する。

自作農創設特別措置法による買収の後も、忍草部落の住民は本件土地に対する入り会いを継続しており、入会権は消滅していない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一(争いのない事実)

原告の請求の原因1(一)の事実のうち、原告が、大正五年五月二日、福地村外四ヶ村恩賜県有財産保護組合(後に、昭和二三年ころ「富士上吉田町外四ヶ村恩賜県有財産保護組合」となり、昭和二六年ころ「富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合」となる。)に対し、その所有していた分筆前の当時の地番檜丸尾五六〇七番の山林七五町歩のうち五四町余を払い下げたこと、同(二)の事実のうち、保護組合が、大正一五年一一月二二日、訴外会社に対し、檜丸尾五六〇七番の土地のうち一五万坪を売却したこと、同(三)の事実のうち、国が、昭和二二年一〇月二日、檜丸尾五六〇七番の二〇八外一六七筆の土地三七町余を買収し、昭和二五年二月一日、檜丸尾五六〇七番の二五五の土地を梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡したこと、同1(四)ないし(六)、同2ないし7記載の事実は、原告と被告間に争いがなく、参加事件の請求の原因1において引用される原告の請求の原因事実についても、右原被告間において争いのない事実は原告及び参加人と被告間で争いがない。

甲事件に対する抗弁記載の事実は、原告と被告間に争いがない。参加事件の請求の原因は原告と参加人間に争いがなく、参加事件の請求の原因2は参加人と被告間に争いがない。

二(本件土地の所有権の帰属)

右一の原告及び参加人と被告間に争いのない事実、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、原告及び参加人と被告間においても、原告の請求の原因1(一)ないし(三)の事実を認めることができ、原告は、檜丸尾五六〇七番の二六八の土地の、参加人は、同番二七四の土地の各所有者であることが認められる。

三(甲事件に対する抗弁)

前記一に掲記のとおり、抗弁事実は原告と被告間に争いがないので、同抗弁は理由がある。

四(本件国有財産払い下げの効力)

1  (甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁1(一))について

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件国有財産払下げにおいては、本件土地を含む約二一四ヘクタールの土地が国から原告に払い下げられたが、右土地について保護組合に林業整備事業を行わせ、将来保護組合に再払下げがなされることが予定されていたことが認められる。しかしながら、右各証拠によれば、

(一)  右土地は、当初、国から保護組合に払い下げられる予定であったが、右土地についてその他の団体等から払下げ申請があった外、右土地を巡って紛争があったため、国は、原告に右土地を払い下げて、右紛争の円満解決に当たらせることとしたこと、

(二)  国は、原告に右土地を払い下げ林業整備事業を行わせ、地元の産業振興に寄与し、富士山一帯の自然環境の保護を図り、演習場の使用による土地の荒廃に起因する洪水、土砂流出等の災害の防止軽減を図り、演習場周辺の保安、防音等のための緩衝地帯となることを企図していたこと、

(三)  原告は、本件売買契約において、国から右土地の植林を完了した日から六〇年間右趣旨に則った林業整備事業に供することを義務付けられ、その間、国の承諾なく右土地の所有権を移転することを禁じられていること、

(四)  保護組合への再払い下げは、将来の可能性として残されているに止まること、

が認められる。

これによると、本件売買の目的物件たる土地は原告において公共用又は公益事業の用に供するため必要な物件であり、国はこれを直接に公共団体である原告に売り払ったものであり、予決令九九条二一号の場合に該当すると認めるのが相当である。

したがって、甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁1(一)は理由がない。

2  (甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁1(二))について

会計法二九条の八に基づき定められた予決令一〇〇条一項七号が、契約書の必要的記載事項であるとする「契約に関する紛争の解決方法」とは、当該契約当事者間の売買契約それ自体についての解釈及び履行についての紛争の解決方法を意味すると解するのが相当であるところ、〈書証番号略〉によれば、本件売買契約においては、国と原告との間における本件売買契約それ自体についての解釈及び履行についての紛争の解決方法は契約書二八、二九条に規定されていることが認められる。

したがって、本件売買契約は、会計法二九条の八、予決令一〇〇条一項七号及び民法九〇条に違反していると認めることができず、甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁1(二)は理由がない。

3  (甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁1(三))について

本件売買契約の売買代金が、時価に比して著しく低額であることを認めるに足りる証拠は提出されていない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件売買契約が、民法九〇条に違反しているとの被告の主張は理由がない。

五(入会権について)

(甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁2)について

1 前記一の原告及び参加人と被告間に争いのない事実、前記二に認定した事実、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、保護組合は、大正一五年一一月二二日、訴外会社に対し、訴外会社が別荘地及び鉄道敷地として開発する予定であることを承知した上で、檜丸尾五六〇七番の土地のうち本件土地を含む一五万坪並びに本件土地に隣接する山梨県南都留郡山中湖村大字山中字梨ヶ原一二一二番の一、一二、一三のうち六五万坪及び同所道路敷面積六万五〇〇〇坪(以下「梨ヶ原地区」という。)を、同一の契約をもって、地上物件補償料を含む合計金二三万二〇〇〇円で売却したこと、本件土地及び梨ヶ原地区について入会権の存否に関しては従前から争いがあり、梨ヶ原地区をめぐる忍草部落住民の入会権の存否に関し、国は、昭和五二年、被告に対し、当庁昭和五二年(ワ)第二八四号妨害予防等請求事件を提起し、原告は、昭和五三年、当庁昭和五三年(ワ)第四〇号独立当事者参加申立事件を提起して右訴訟に参加したこと、右訴訟において国及び原告は、梨ヶ原地区につき仮に忍草部落住民が入会権を有していたとしても、保護組合が、梨ヶ原地区の土地を、別荘地及び鉄道用地として、訴外会社との間で、大正一五年一一月二二日、売買代金二三万二〇〇〇円をもって売買契約を締結したところ、右売却については、忍草部落の住民は格別反対せず、全員同意し、入会補償なども問題とされたことは全くなく、昭和二年三月一三日、保護組合は右土地の訴外会社への引渡を完了したのであるから、右売却の際、梨ヶ原地区の入会権は消滅した旨主張したこと、これに対し、当庁は、昭和五九年一月三〇日言渡した判決において、保護組合が訴外会社に対し梨ヶ原地区を売却してこれを引渡したのに対し、従前の入会部落住民から何ら異議がなかったことにより、従前の入会集団による管理統制による入会地毛上の使用収益方法は変質して、従前の部落住民の入会慣行は消滅し、忍草部落住民の入会権は完全に解体消滅したと認定し、原告の請求を認容したこと、右判決に対し、被告は、東京高等裁判所に控訴し、同庁昭和五九年(ネ)第五五八号事件として係属したが、同庁は、昭和六〇年一二月二四日、右控訴を棄却し、被告は、これに対し最高裁判所に上告(昭和六一年(オ)第三一二号)したが、平成二年三月二〇日、右上告が棄却されて右判決が確定したこと、明治初期の官民有地区分に際し、本件土地に隣接する梨ヶ原地区については統廃合前の旧上吉田、新屋・松山・下吉田・新倉・大明見・小明見・山中・長池・平野及び忍草の一一か村(以下「旧一一か村」という。)が所有権を主張し、旧一一か村の共有地とされたのに対し、本件土地は官有地に区分されたこと並びに本件土地が訴外会社に売却される以前の梨ヶ原一帯の使用状態について、梨ヶ原地区は、旧一一か村の村民によって、堆肥、飼料用の生草を採取し、桑を植栽する等入会地として利用され、保護組合は、明治二六年以降、右土地を区画分けして小作人と呼ばれる分割利用者に対して貸付け小作料を徴収して活用していたが、本件土地を含む檜丸尾地区は、溶岩地帯であり、自然環境が厳しかったことから、分割利用されることもなく、保護組合の直轄地とされ、旧一一か村の村民によっても、粗朶及び岩石の採取程度の利用しかされていなかったことの各事実が認められ、右事実によると梨ヶ原地区と本件土地との間にはその利用形態に差異があるものの、本件売買による入会権の消滅については特段の差異を認めるべき事情がないことが認められる。

以上の事実を総合すると、本件土地についても、保護組合が訴外会社に対し本件土地を含む檜丸尾五六〇七番のうち一五万坪及び隣接する梨ヶ原地区を売却し、これを引渡したのに対し、従前の入会部落住民から何ら異議がなかったことにより、従前の部落住民の入会慣行は消滅し、忍草部落住民の入会権は消滅したものと認めるのが相当である。

右認定に反する〈書証番号略〉及び被告代表者尋問の結果は、いずれも具体性を欠き裏付けがないこと及び前掲各証拠に照らし、採用することができない。

なお、被告は、忍草部落住民は入会権を留保して本件売買に同意したものであって、右売買によるも入会権が消滅していない旨主張し、〈書証番号略〉及び被告代表者尋問の結果はこれに副うが、前記のとおり対象土地が別荘地及び鉄道敷地として売却されるものであったことに照らしてにわかに採用することができない。

2 また、仮に、本件売買によって、入会権が消滅していないとしても、前記二に認定したとおり、国が、昭和二二年一〇月二日、本件各土地を含む檜丸尾地区三七町歩余を、自作農創設特別措置法により、未墾地として買収したものであるから右買収の際、自作農創設特別措置法三四条一項、一二条一項により、本件土地についての入会権は消滅したというべきである。

右と異なる被告の主張は、独自の見解であって、採用できない。

3  入会権が再発生したとの被告の主張について、〈書証番号略〉及び被告代表者尋問の結果は、具体性がなく、その裏付けを欠き、にわかに採用できず、他に、本件売買又は自作農創設特別措置法による買収後、忍草部落住民が集団の統制の下に本件土地に対し入会権を行使した事実を認めるに足りる証拠はなく、入会権の消滅後、入会権が再発生したことを認めるに足りる証拠はないというべきであるから、その旨の被告の主張は理由がない。

4  以上のとおりであるから、被告の入会権についての主張はいずれも理由がない。

5  なお、〈書証番号略〉及び被告代表者尋問の結果によると、被告において昭和三二、三三年ころ植林の監視のための小屋を建築したことがある外、昭和四九年には本件土地の払下げをめぐる闘争のために小屋を建築したこと、昭和四九年に建築した小屋は昭和五三年焼失し、その後は再築しなかったこと、その後、東富士五湖道路建設の反対闘争のため昭和五七年に小屋を建築したが、これは仮処分の執行により撤去されたこと、以後も右闘争のために小屋等を建設していること、土地(六)上に入会の森と称して建設された建物ないし工作物(ハ)は入会小屋ではなく、入会のために建設されたものではなく観光施設として建設されたものであることが認められる。

ところで、被告は、本件土地の所有権者と同様の収益をなしうる入会権を有していた旨主張するが、これを裏付けるに足りる事情を示す証拠はなく、したがって、被告が入会権を有していたとしても、右入会権の内容は、前記認定のとおり粗朶及び岩石の採取をすることに止まると解すべきであるところ、本件土地上に建設されている建物(二)及び工作物(三)、建物ないし工作物(七)1ないし6は、いずれも北富士演習場の自衛隊による使用に対する反対闘争あるいは東富士五湖道路建設反対闘争のために建設されたものであること及び建物ないし工作物(八)は観光目的のために建設されたものであることは、右認定のとおりであるから、仮に被告に入会権があるとしても、右各建物及び工作物は右入会権に基づいて建設されたものとは言えず、右の点においても被告の主張は理由がない。

六(地上権もしくは賃借権類似の使用収益権について)

(甲、乙、丙、参加事件に対する抗弁3)について

国管法四条一項は、同法二条の規定により合衆国に使用を許した国有の財産について、「合衆国軍隊が一時的に使用しない施設について、その用途又は目的を妨げない限度において」他の者にその使用又は収益を許すことができる旨、また同法四条二項は、他の者に許容した使用または収益権は「合衆国が当該財産を返還したときにおいて消滅する」旨規定しているところ、同条項による許可は、目的物件が条約に基づき米軍に提供した施設であることを前提にしており、したがって、米軍の認容を前提とするものと解され、かかる制限の全くない私法上の地上権もしくは賃借権類似の使用収益権の設定であるとは到底解し得ない。

現に、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  関東財務局長は、昭和三一年五月一日、当時の忍草入会組合に対し、国管法四条一項に基づき、合衆国軍隊に演習場として提供された土地であった檜丸尾五六〇七番面積三四町八反八畝六歩を、使用目的を、用材及び薪炭材不足のため将来の補給を目的とする植林、使用期間を昭和三一年五月一日から昭和三二年三月三一日までとし、合衆国軍隊が使用財産を一時的に使用することになった場合には使用者は財務局長の通知により遅滞なく使用財産の使用収益を中止して合衆国軍隊の用に供する状態にしなければならないこと、国管法四条二項の規定により使用または収益する権利が消滅したときは遅滞なく使用物件を国に返還しなければならないこと等の明文による条件を付して、一時使用許可をした。

2  右一時使用許可は、その後も一年毎に更新されて、右土地が米軍から返還される昭和四八年五月一九日まで継続した。

右認定に反する〈書証番号略〉、被告代表者尋問の結果は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。

したがって、本件許可は、国管法に基づく、一時的なものである旨定められた行政処分としての使用許可であって、期間が六〇年間に及ぶ私法上の地上権もしくは賃借権類似の使用収益権を与えたものではなく、右使用許可による利用権限は、合衆国が当該財産を返還したことにより法律に従って当然に消滅したと認めるのが相当であり、被告の地上権または賃借権類似の使用収益権の主張は理由がない。

また、右一時使用許可が植林を目的としてなされていたことのみをもって、米軍が本件土地を国に返還した際に、国との間で地上権または賃借権類似の使用収益権が設定されたものとは言えず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

七(権利濫用について)

被告がその主張する入会権等本件土地の占有を正当化する権限を有しないことは既に認定したとおりであって、一件記録によるも他に原告及び参加人の被告に対する本訴請求を権利の濫用であって許されないとするような事由は認めることができない。

したがって、被告の権利濫用の主張は理由がない。

八(丙事件請求の原因6について)

前記五5認定の本件各建物及び工作物建設の経過、被告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、丙事件請求の原因6が認められる。

九(結論)

以上によれば、原告の請求は、建物ないし工作物(七)を収去して土地(五)を明け渡すこと、建物ないし工作物(八)を収去して土地(六)を明け渡すこと、工作物(九)を収去すること並びに土地(四)上に建物、工作物等を設置することを禁じることを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、参加人の原告及び被告に対する請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官豊永格 裁判官石栗正子 裁判官西﨑健児)

別紙物件目録(一)〜(九)省略

図面(一)〜(六)省略

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